古典菊:江戸の美意識

「古典菊」:佐原・歴博植物苑で撮影した雅な世界

国立歴史博物館古典菊特別展

国立歴史博物館古典菊特別展

千葉県佐原(香取市)、歴史の香りが残るこの地で、「江戸の至宝」が咲き誇っていました。国立歴史民俗博物館の「くらしの植物苑」で開催されていた特別展示。そこには、私たちが普段目にする菊とは全く異なる、情熱と技が注ぎ込まれた「古典菊」の世界が広がっていました。写真と共にご案内します。

嵯峨菊― 平安の雅を今に伝える

まずは、一番のお勧めから始めましょう。

展示の冒頭、私の目を釘付けにしたのは『嵯峨菊 実生(みしょう)』でした。 実生とは、種から育てられた新しい命のこと。伝統の型を受け継ぎながらも、誰のコピーでもない、この世に一輪だけの姿。 その凛とした立ち姿からは、千年の歴史の先へと向かうような、力強い意志を感じました。

01 嵯峨菊実生:高貴で気高い雰囲気を持つ。

嵯峨菊実生:高貴で気高い雰囲気
嵯峨菊実生

歴史豆知識
嵯峨天皇が、大覚寺にある「大沢池」の島に咲いていた野生の菊を、一枝折って、花瓶に挿したところ、その姿があまりに高貴だったという伝説があります。

嵯峨菊は、京都・大覚寺が発祥とされる日本最古の古典菊です。「高貴で気高い。一目で心奪われる圧倒的な存在感」のある嵯峨菊は、明治時代まで、大覚寺の外に出ることを許されない門外不出の秘花でした。そのため、単なる京都の花ではなく「嵯峨御所の特別な菊」という意味を込めて「嵯峨菊」と呼ばれています。

仕立て方にも独特の決まりがあります。「下葉は枯らし、中程は疎らに、先端に花を咲かせる」という「三・五・七(花びらの数や高さの比率)」という厳格な仕立てのルールです。
その姿は、洗練された貴族文化そのもの。これは当時の有職故実(朝廷の儀式などの決まり)に基づいたものです。

02 嵯峨の白: 清純な中にも宿る優美さ。

03 嵯峨の舞: まるで着飾った貴族の舞姿。

嵯峨の舞: まるで着飾った貴族の舞姿

04 嵯峨菊 たちばな: 自然が描く黄色と赤のグラデーション。

嵯峨菊 たちばな: 自然が描く黄色と赤のグラデーション

奥州菊― 豪華絢爛一輪の宇宙

青森県八戸を中心に発展した奥州菊。その特徴は、中心部がこんもりと盛り上がる「盛り上げ」の美にあります。

そして、奥州菊の名を眺めると、『永楽殿』や『紫光殿』など、末尾に『殿』とつくものが多いことに気づきます。 かつて八戸藩で、お殿様へ献上するために育てられたこの菊たち。一輪一輪を擬人化し、敬意を込めて『殿』と呼んだ当時の人々の、花に対する深い愛着が伝わってくるようです。 確かに、この盛り上がるような力強い造形は、威風堂々とした武士の姿そのものに見えてきます。

歴史豆知識
 奥州菊は、江戸時代に八戸藩(現在の青森県)で独自に発展しました。もともとこの菊は、藩主である「お殿様」に鑑賞してもらうための特別な花でした。
そのため、花そのものを高貴な存在、あるいは「お殿様に見せるにふさわしい格調高いもの」として、敬称である「殿」を付けて呼ぶ習慣が生まれたと言われています。

05 奥州菊愛国殿: 中心はカップケーキのような愛らしさ。

06 奥州菊永楽殿: 「殿」の名にふさわしい高貴な色調。

奥州菊永楽殿: 「殿」の名にふさわしい高貴な色調。

07 奥州菊栄楽殿:全体がますます盛んに盛り上がる。

奥州菊栄楽殿:全体がますます盛んに盛り上がる。

08奥州菊星月夜: 幾重にも重なる花びらが、夜空の月のよう。

星月夜: 幾重にも重なる花びらが、夜空の光を月にした姿。

09 奥州菊花神輿:まるで神輿のような豪華な一輪。

奥州菊花神輿:まるで神輿のような豪華な一輪。

寒冷な東北地方で、いかに豪華に、力強く咲かせるかを追求して進化しました。武士の力強さと、冬を越す情熱がこのボリュームを生んだのかもしれません。

江戸菊― 変化を楽しむ粋

江戸時代の中期、江戸の町人文化の中で爆発的に流行したのがこの江戸菊。享保の改革などの厳しい時代を経て、町人たちが「自分たちの楽しみ」を追求した時代です。

この頃、江戸の駒込や染井(現在の豊島区)の植木屋が競って新しい菊を作り、展示会(菊合わせ)を開催しました。 豪華さだけでなく、咲きながら形を変える(狂い)という変化を楽しむ江戸菊の性質は、この時代の「粋」な美意識にぴったり合致しました。変化朝顔、変化菊。園芸文化花盛りの絶頂期でした。

10 江戸の白桜: 夜空を彩る花火のような白い姿。

江戸の白桜: 夜空を彩る花火のような白い光。

11 下谷の銀星: 彗星のように一瞬の煌めきを放つ姿。

下谷の銀星: 彗星のように一瞬の煌めきを放つ姿。

江戸時代、下谷や入谷周辺は入谷の朝顔に代表されるように、園芸が非常に盛んな地域でした。特に腕の良い植木屋が多く住んでいたため、その地名がブランド名のように冠されています。

12 江戸絵巻: 黄、赤、白。色の変化はまさに動く絵巻物。

江戸絵巻: 黄、赤、白。色の変化はまさに動く絵巻物。

13 江戸菊秋偲:秋のもみじを思わせるような深い色合い。

江戸菊:秋偲秋のもみじを思わせるような深い色合い。

歴史豆知識 江戸菊の最大の特徴は「狂い(変化)」にあります。咲き進むにつれて花びらが折れ曲がり、形を変えていく。その「移ろい」を愛でるのが江戸っ子の「粋」でした。

丁子菊・伊勢菊・肥後菊

ここから、花の中央にある筒状の花びら(筒状花)が、こんもりと大きく盛り上がって咲くアネモネのような不思議な形の「丁子菊」や、地方ごとの特色ある菊たちが続きます。

中央が盛り上がった不思議な形の丁子菊。その名の由来は、江戸時代に薬や香料として珍重されたスパイス『丁子(クローブ)』に似ているからだそうです。当時はお洒落な香りの代名詞でもあった丁子。そう思うと、このユニークな形もどこかモダンでハイカラに見えてきますね。

実際には幕末や明治に作られた種であっても、日本人が最も「華やかで活気があった時代」として愛する「元禄」などの名前を冠することで、その花の豪華さを表現しています。

14丁子 菊牛若丸: 五条大橋を飛ぶ牛若丸の躍動感そのもの。

丁子 牛若丸: 五条大橋を飛ぶ牛若丸の躍動感そのもの。

15 丁子菊元禄丸: お香の丁子(クローブ)に形が似ている。

丁子菊元禄丸: お香の「丁子(クローブ)」に形が似ている。

16丁子菊岸の磐梯:福島の名峰・磐梯山に見立てたもの。

丁子:岸の磐梯

17伊勢菊陽春: 温かい春に外に出て日向ぼっこしているよう。

伊勢菊陽春: 温かい春に外に出て日向ぼっこしているよう。

18 伊勢菊酔姫: 縮れた花びらが長く垂れ下がるのが特徴。「お伊勢参り」の土産として広まったとも言われます。

伊勢菊酔姫: 縮れた花びらが長く垂れ下がるのが特徴。「お伊勢参り」の土産として広まったとも言われます。

19 肥後菊: 熊本藩主・細川重賢が、武士の精神修養として奨励しました。そのため、キリリとした清廉な美しさが際立ちます。

肥後菊: 熊本藩主・細川重賢が、武士の精神修養として奨励しました。そのため、キリリとした清廉な美しさが際立ちます。

時を越えて咲く日本の心

入り口をくぐった瞬間に感じた、あの凛とした空気。 写真を見返すと、当時の文人や武士、町人たちが、一輪の花にどれほどの情熱を注いでいたかが伝わってきます。

佐原の歴史的な静寂の中で出会った古典菊。 それは単なる花ではなく、私たちが忘れかけている「四季を愛で、名を贈る」という豊かな文化の記録でした。

途中で静かに咲いていたノコンギクに出会いました。「民さんは野菊のような人だ」という台詞を思い出し、カメラを向けてしまいました。

かの伊藤左千夫が『野菊の墓』で描いた、あの清純な美しさ。 職人や武士たちが技を競った『古典菊』の華やかさを存分に浴びた後で、この野菊の薄紫色を見ると、ふっと心が穏やかになるのを感じます。

20 野菊ノコンギク:素朴で純粋な美しさ

野菊ノコンギク:素朴で純粋な美しさ

技を尽くした『人工の美』と、自然のままの『野の美』。 その両方を愛してきた日本人の豊かな感性が、ここ佐原の地には今も息づいていました。

皆さんもぜひ、この「生きた芸術」に会いに、佐原へ足を運んでみてはいかがでしょうか。
また古典菊は、名所にちなんだ名前が多いので花の隣にある名札が知識欲を満たしてくれます。

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