
二つの国の物語
なかよし「東のほほえみ国」と「西のきらめき国」
むかしむかし、地球のどこか、まるでおとぎ話に出てくるような美しい場所に、二つの小さな国がありました。
東側にあるのは、「ほほえみ国」。人々は働き者で、おいしい果物や、太陽みたいに明るい色の布を作るのが得意でした。
西側にあるのは、「きらめき国」。こちらは、きらきらと光る宝石や、丈夫で美しい木工品、そして何より、寒い冬を乗り切るための温かい毛織物を作るのが上手でした。
二つの国の間には、「わかちあいの川」と呼ばれる、広くて大きな川が流れていました。
夏は、キラキラと魚がはねる青い川。そして、冬になると、その名の通り、分厚く、頑丈な氷でおおいつくされ、まるで巨大な橋のようになりました。

ほほえみ国ときらめき国の人々は、この川が凍るのを毎年心待ちにしていました。なぜなら、川が凍ると、お互いの国へ行き来して、足りないものを交換し、助け合うことができたからです。
ほほえみ国からは、甘いリンゴと赤い布。きらめき国からは、ふかふかのマフラーとピカピカの木のおもちゃ。
二つの国は、まるで一つの大きな家族のように、とっても仲良しでした。
やってきた、黒い影

ところが、そんな平和な日々に、ある年、黒い影が差し込みました。
それは、遠い北の果てにある、「ドドーンとでっかい国」の軍隊でした。ドドーンとでっかい国の王様は、「がめつい王」と呼ばれ、いつも「もっと、もっと」と、人のものを欲しがる人でした。
ある日、ドドーンとでっかい国の、鉄のよろいをまとった軍隊が、突然ほほえみ国にやってきました。
彼らは、ほほえみ国の宝物である、色とりどりの果物と布を力ずくで取り上げてしまいました。
「これで、東のほほえみ国は、わしのものじゃ!」
がめつい王は、次に目をギラつかせました。
「さて、次は西のきらめき国じゃ!あそこのきらきら光る宝石と、あったかい毛布も、全部わしのものにしてしまえ!」
季節は、一年で最も寒い、真冬の真っ最中でした。わかちあいの川は、分厚く、頑丈な氷におおわれています。
がめつい王は、部下である「いばり将軍」に命令しました。
「いばり将軍よ!今すぐに全軍を率い、氷の橋を渡って、きらめき国を攻め落とせ!さあ、突撃じゃあ!」

氷の橋を渡る、軍隊
いばり将軍は、冷たい風に身を震わせながらも、「おおっ!」と大きな声を上げ、軍隊を率いて、凍ったわかちあいの川へ踏み出しました。
ドドーンとでっかい国の軍人たちは、重たいよろいと武器のせいで、足音が「ゴトッ、ゴトッ」と鈍く響き、氷の上をぞろぞろと進んでいきました。
きらめき国の人々は、この恐ろしい敵の姿を見て、ふるえながらも、どうすることもできずに、ただ見つめることしかできませんでした。
軍隊が、川のちょうど真ん中あたりまで来た、その時です。
「バリバリバリッ!」

突然、彼らの足元の氷が、地鳴りのような、恐ろしい音を立ててひび割れ始めました!
「な、なんだ!?」いばり将軍が叫びました。
そして、ひび割れは、あっという間に広がり、軍隊の真下で、大きな氷の塊が、メキメキと持ち上がり始めたのです!
水中に隠された秘密
軍人たちは驚いて、あわてて引き返そうとしましたが、もう遅い!彼らが通ってきた道の氷も、「バリバリッ!パリーン!」と、次々に割れていきました。川岸まで、逃げ道はもうありません。
「ドッボーン!」「ヒャアアア!」
重たいよろいと武器を持った軍人たちは、バランスを崩し、冷たい川の中へ次から次へと落ちていきました。彼らの怒鳴り声や、水の音で、辺りは大混乱です。
実は、この川の底には、大きな秘密が隠されていたのです。
その秘密とは、川に住むたくさんのイルカとクジラでした!彼らは、凍るように冷たい川の中で、大きな体で分厚い氷を、下から一生懸命持ち上げて、割っていたのです!
小さな命を救った、大きなやさしさ
なぜ、イルカやクジラが、そこまでして二つの国を助けたのでしょう?
それは、今から何年か前の、暑い暑い夏のことでした。
わかちあいの川の水位が、日照りでとても低くなってしまった時、遊びに来ていた幼いイルカと、病気で弱っていた小さなクジラの親子が、川岸の熱い砂の上で、動けなくなってしまったことがありました。
ほほえみ国ときらめき国の人々は、それを見て、大急ぎで駆けつけました。彼らは、大きなバケツで何度も水をかけて体を冷やし、涼しい草の陰へ運びました。
そして、元気が出るまで、新鮮な魚を運んで、熱心にお世話を続けたのです。

あの時、助けられたイルカとクジラたちは、川の底で、その時の人間たちの大きなやさしさを、決して忘れていなかったのです。
だから、自分たちができる、一番の恩返しとして、力を合わせ、氷を割り、小さな国々を悪い軍隊から守ったのでした。
「イルカ、いないか?」
軍隊のほとんどが冷たい川に落ち、逃げ場を失ったのは、がめつい王と、彼に最後まで付き従っていた、一人の側近だけでした。
震え上がったがめつい王は、割れた氷の隙間から見えた、イルカの尾びれを指さし、顔を真っ青にして、ふるえながらつぶやきました。
「い、イルカ…いないか?」
側近は、もはや王様を敬う気持ちなど、どこかへ飛んでいってしまっていました。彼は、王様の顔をじっと見て、大声で怒鳴りました。
「王様!こんな時に、そんなバカな冗談を言っている場合ではありません!あの氷の下にいるのは、イルカやクジラに違いありません!ここはもう、逃げましょう!」
側近は、王様を見捨てて、一目散に岸へと逃げ出しました。がめつい王は、たった一人、割れかけた氷の上で、「イルカ、いないか…」と、助けを求めるように何度も何度もつぶやいたそうです。
お城に戻っても、同じ言葉「イルカ いないか」だけを繰り返していました。もう二度と「とつげき!」とか「せめるぞ!」という言葉は使わなくなりました。

友情は永遠の宝物
こうして、ドドーンとでっかい国の軍隊は、水びたしになり、恥ずかしそうに、すごすごと自分の国へ逃げ帰っていきました。
助かったほほえみ国ときらめき国の人々は、大喜びで氷の橋の上で抱き合いました。彼らは、自分たちを救ってくれた、目に見えない恩人たちに、心から感謝しました。
その後、二つの小さな国は、以前にもまして、お互いに助け合い、支え合いながら暮らしました。
わかちあいの川のほとりでは、冬が来るたびに、人々が川の生き物に感謝の気持ちを込めて、美しい歌を歌うようになりました。

そして、ほほえみ国ときらめき国は、いつまでも豊かに、そして、幸せに暮らしたとさ。
めでたし、めでたし。
山田みち子とMicrosoft Copilotの共創
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