玉ねぎ姫エリー

今回の童話は山田みち子が長年温めてきた物語です。挿絵をAIを駆使してみました。試行錯誤しながらの制作です。(2025年9月)

ぜいたく王国

むかしむかし、太陽がいつもキラキラ輝く、「ぜいたく王国」に、それはそれは美しいお姫様が住んでいました。名前はエリザベート、みんなからはエリーと呼ばれていました。


エリー姫がこの世で一番、いや、宇宙で一番好きなもの。それは、お洋服でした。

「まあ、ステキ! このフリフリのレース!」
「あら、カワイイ! このピカピカのボタン!」

気に入ったお洋服を見つけると、もうガマンなんてできません。世界中の洋服屋さんが、エリー姫のために、毎日毎日、新しい服を船や馬車で運んできました。


困ったことに、エリー姫は新しい服を着るのは好きでしたが、しまうのは大キライ!

いつしか、お姫様の広いお部屋は、服、服、服で、足の踏み場もなくなりました。それどころか、お洋服はまるで生き物のように、お部屋から廊下へ、階段へ、応接間へと、侵略を始めたのです!



「あら、このマント、壁みたいでステキ!」と、お姫様は喜んでいましたが、

  1. 王様の会議室は、山積みになった毛皮のコートのせいで、ドアが開かなくなり、
  2. 女王様のお気に入りのティーカップは、山のようなパジャマの下で、かくれんぼを始め、
  3. お城のコックさんは、キッチンに溢れたエプロンの山で、滑って転びそうになり、
    ついに、お城全体が、巨大な「衣替えの箱」みたいになってしまいました。みんな、毎日、ため息ばかりです。

ひらめいた!
「こわ〜い魔女」のアイデア


ある日の夜、王様と女王様は、お洋服の山をよじ登って、やっとのことで頭を寄せ合いました。

王様:「ああ、もうダメだ。このままだと、わが城はお洋服の山崩れでつぶれてしまう!」

女王様:「あの子、今日も朝から20着も重ね着しているのよ!暑くないのかしら!」

そこで、二人は、お城の裏庭に住む、「ふきげん魔女」に相談することにしました。
ふきげん魔女は、いつもブツブツ文句ばかり言っている、ちょっとこわい魔女です。

「ふむ、ふむ。洋服、ね」

魔女はニヤリと、口の端を吊り上げました。

「わたくしに、とっっってもいい考えがありますよ。お姫様には、お城の一番高い塔で、少し頭を冷やしていただきましょう」

王様と女王様は、魔女の恐ろしい笑顔に、ゾッとしながらも、「お願いします…」と、しぶしぶ頼みました。


魔法の杖とタマネギのにおい


その頃、エリー姫は、ふんわりとした白いドレスの上に、金のレースのボレロ、その上に大きなリボンのついたピンクのケープ、さらにその上に、モコモコのウサギの耳つきジャケット…と、20着近くの服を重ね着して、まるで巨大な雪だるまのように、廊下をヨロヨロと歩いていました。


その目の前に、ふきげん魔女が現れました。


「あら、魔女さん。わたくしの新しいドレスはいかが?」
と、エリー姫がニコニコ尋ねた、その瞬間です!
魔女は、持っていた杖を、「シュルッ!」と、斜めに一閃!


次の瞬間、ドスンと音がして、エリー姫の体に起こった変化は…!
な、な、なんと!
エリー姫が重ね着していた20着のお洋服が、全部、分厚い「タマネギの皮」に変わってしまったのです!

20枚ものタマネギの皮を重ね着したエリー姫は、まるで、歩く巨大なタマネギです!

そして、タマネギのツーン!とくる、あの強烈なにおいが、プワ〜ンと、お城中に広がりました。

「く、くさい!」「目がしみるー!」「ヒィィィ!」

そばにいた侍女も、近衛兵も、みんな鼻をつまんで、サッ!と、一目散に逃げ出しました!もちろん、お洋服に埋もれていた女王様も、タマネギのにおいだけはガマンできず、飛び出してきまし
た。

鏡だらけの塔の部屋


魔女は、杖をもう一振り。
「ビュン!」

エリー姫は、自分が着ている20枚のタマネギの分厚さに驚く間もなく、お城の一番高い塔の部屋に、瞬間移動していました。

その部屋は、ぐるりと鏡だらけ!上も、下も、左も、右も、どこを見ても、巨大なタマネギ姿の自分が映っています。

「きゃー! 見られたもんじゃないわ!」


タマネギの皮のにおいと、醜い自分の姿に、エリー姫は、生まれて初めて「ハッ」としました。

「えい!」

姫は、一枚、また一枚と、分厚いタマネギの皮を剥ぎ取りました。でも、タマネギの皮の下から出てくるのは、また次のタマネギの皮!

「もうイヤ! 何枚剥いでも、タマネギ! タマネギ! タマネギよ!」

魔法が解ける、たった一つの言葉


エリー姫は、鏡の中のタマネギ姿に心底うんざりしました。そして、塔の部屋に食事を運んできた、貧しい身なりの召し使いに言いました。

「ねえ、あなた。わたくしのタマネギの服、ぜんぶあげる。もう、こんな服、二度と見たくもないわ!」

召し使いは、目を丸くして、タマネギの山を抱えて帰っていきました。

とうとう、最後の一枚のタマネギの皮だけが残りました。身軽になったエリー姫は、体の軽さに感動しました。

「あ、ドアがスルッと抜けられる!」
「階段を飛び降りるみたいに軽い!」

軽やかな足取りで、王様と女王様の部屋に飛び込んだエリー姫は、満面の笑みで叫びました。

「お父様、お母様! 私、もう、なにもいらない! こんなに体が軽いって、なんて気持ちがいいんだろう!」

エリー姫が、「なにもいらない」と、心から言ったその瞬間!
最後に残ったタマネギの皮が、光を放ち、「パッ!」と弾けて、水色の、ふわりと軽い、美しいドレスに変わったではありませんか!

タマネギのないホテル


「ふっふっふ」

魔女は、そっと窓の外から、美しい笑顔でうなずきました。彼女が待っていた魔法のキーワード。それは、「なにもいらない」という、欲を捨てる言葉だったのです。

その後、お城にあった、山のようなお姫様の洋服は、クリスマスイブの晩に、サンタクロースのプレゼントとして、ぜいたく王国の貧しい人々に、そっと配られました。

すっかり洋服がなくなって、スッキリ、広々としたお城は、今では「タマネギのないホテル」という名前で、その国の自慢の観光地になったとさ。
そして、エリー姫は、一番のお気に入りの水色のドレスを大切に、軽やかに暮らしました。

めでたし、めでたし。

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