ぴょんぴょん物語1
ぴょんぴょん物語 〜ララはきらめき宅配便!〜
読者対象: 10歳の児童 テーマ: 新しい一歩、心の光、ふたたび笑うこと
プロローグ:
黒いゴミ袋からのSOS
音楽大学に通う佐久間三代子、18歳。ミヨねえちゃんと呼ばれている。夢の作曲は、どうにもこうにも進まない。自信も元気も、砂時計の砂みたいにサラサラとこぼれ落ちていく毎日だ。真夏の太陽はまぶしいけれど、ミヨの心には分厚い雲がかかっていた。両親を亡くしたばかりで、音楽もバイトも弟の世話も、全部が重かったのだ。
弟の翔(かける)、10歳。ミヨねえちゃんにとっては「カケル」だ。両親との事故で体は無事だったのに、なぜか学校に行けなくなった。心に大きな絆創膏を貼ったまま、部屋に引きこもって、ひたすらゲーム。家の中は、おもーい空気に包まれていた。
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ある蒸し暑い夏の朝、ミヨねえちゃんはバイトに向かう途中、アパートの前の黒いゴミ袋が、どうもおかしいことに気づいた。
「ん?なんだかゴミ袋がプルプル震えてない?」
そーっと近づいて、声をかける。 「あのー、ゴミさーん? もしかして、生きてます?」
すると、中から「キー、キーー!」と、ものすごく大きな、まるで誰かの叫び声のような返事が!
ミヨねえちゃんはびっくり仰天。恐る恐るゴミ袋の端っこを「ぺりっ」とめくってみた。
光が差し込んだ瞬間、中から飛び出してきたのは——
淡い茶色で、まるでマシュマロみたいな毛並みの、丸っこいウサギだった!

ララという名の、きらめき
ウサギはまぶしさに目を細めて、鼻をピクピク! 震えながらも、その丸い瞳は、ミヨねえちゃんをじっと見つめている。
「あらら、ウサちゃん。あなた、ゴミじゃなくてきらめきね!」 ミヨねえちゃんは、ふわりと抱き上げると、その場でクルクルっと一回転!すっかり元気が出てしまった。
アパートに連れ帰り、冷蔵庫からキャベツの葉っぱを出す。
「ウサちゃん、お名前、私が決めてもいい?」 ウサギは、葉っぱに夢中で、「ガツガツ! ザクザク!」と豪快に食べる。
「あなたはウサギ、英語でラビット。だから、最初の音はラ! そして、次の音は…ふふふ、私の好きな音階のラ! 合わせて…ララよ! ラビット・ララ! いいわね!」
ミヨねえちゃんがご機嫌で歌い始めた、その時!
ガラッと部屋の奥のカーテンが開き、カケルが目をこすりながら出てきた。 「うわっ、うるさ! おかえり、ミヨねえちゃん」 カケルが着ているのは、派手な花柄模様のパジャマ。まるで動く花畑だ。
「あら、カケル! 学校サボりの名人が起きてきたわね! 見て! この可愛いララを!」 「へえ?」
カケルは、ふてくされた顔で近づいてきた。そして、テーブルの上のララ用のキャベツに手を伸ばした、その瞬間!
ピシャリ! ミヨねえちゃんの強烈なツッコミが、カケルの頭に炸裂!
「カケル! あんたの朝ごはんは冷凍庫のカレーでしょ! ララのごはんを奪うなんて、ウサギにさえ負ける男になる気なの!?」
カケルは頭を抱えながら、言い返す。 「うるさい! ウサギごときに負けるか!…ってか、名前あるの?」
ミヨねえちゃんは、ニヤリ。 「ララよ。さあ、カケル! あなたに重大な任務を任せるわ!」 「は?何?」 「あなたが、このララの食事係よ! ごはんをあげて、ケージをピカピカにして、毎日ララに元気になってもらうの!」

カケルは「えー!」と叫んだが、ミヨねえちゃんの目力に逆らえるはずがない。だって、ミヨねえちゃんがいないと、朝昼晩のごはんにありつけないのだ。
「…わかったよ」
ララは不思議な「元気バロメーター」
その日から、カケルとララのドタバタ同居生活が始まった。
カケルは、ララの世話係として、生まれて初めて「責任」という重い荷物を背負うことになった。
ララの大好物は、公園の葉っぱではなく、チモシーという高級な牧草らしい。 「ふーん、わがままウサギめ」と言いながらも、カケルは毎日欠かさずチモシーを補充した。
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すると不思議なことが起こった。
ララがごはんをもりもり食べると、カケルの心の中のモヤモヤが、少しだけ晴れる気がした。
ララが、カケルの足元で「八の字」にぴょんぴょんと回って甘えると、カケルはなぜだかムズムズ笑いたくなった。
「なんだよ、回転八の字かよ! 俺が寂しい時間を取り戻してるってか!?」
カケルは、いつの間にか、ララのおかげで、自分の悲しさや辛さばかりに心を奪われていたことに気づいた。
「生きるって、ララがこんなに一生懸命にごはん食べて、走って、生きてるってことなんだ!」
カケルは、はっとした。そして、久しぶりにミヨねえちゃんに内緒で、学校の門をくぐった。
その日、ミヨねえちゃんがバイトから帰宅した時、玄関で待っていたのは、ララだけじゃなかった。

「おかえり、ミヨねえちゃん!」
ララの隣で、花柄パジャマではなく、制服を着たカケルが、ニコニコ笑って立っていたのだ!
ミヨねえちゃんは、目を丸くして、次に涙をいっぱいためて、笑った。
「ララ! あなたって、まるで元気を運ぶ宅配便ね!」
ミヨねえちゃんは、ララの背中を優しくなでながら、心からの言葉をささやいた。 「ララ、大好きよ!」
「ふん。俺なんか、もっともっと好きだね!」 カケルは、ちょっと鼻を上に向けて、自慢げに言った。ララも同じように、鼻をピクピクと上に向けて、「負けないぞ!」とでも言いたげな顔をした。
オンボロアパートから聞こえる、笑い声と、チモシーを食べるカリカリ音。 その夜、佐久間家の空は、夏の雲が晴れたように、キラキラと輝いて見えた。
つづく
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