走る星と考える星

少年ラン丸とヤス君の友情物語

二つの星

少年ラン丸とヤス君の出会い

むかしむかし、いや、今からそう遠くない昔。とある町の小学校に、二人の男の子がいました。

一人は、「走る星」と呼ばれたラン丸

ラン丸は、朝から晩まで、とにかく走るのが大好き!

寝ている時以外は、足がウズウズしていました。かけっこ、鬼ごっこ、ドッジボールだって、誰よりも早くボールに追いつきます。ランドセルを背負っていても、走り出すと、まるで空気のように軽く、風になってしまうのです。

ラン丸の隣には、いつも茶色いモコモコの相棒、柴犬のラッキーが寄り添っていました。ラッキーもまた、走ることが大好きで、ラン丸の最高のランニングパートナーでした。

「ようし、今日も一番だ!」ラン丸は、ラッキーと一緒に、朝焼けの道を駆け抜けます。

走る星と考える星の少年ラン丸

もう一人は、「考える星」と呼ばれたヤス君

ヤス君は、じっとしているのが大得意!

休み時間も、校庭で遊ぶより、図書室で分厚い本を読んだり、庭の石の下にいるダンゴムシを、虫めがねで何時間も観察したりしていました。

ヤス君にとって、走ることは「なぜ、わざわざ疲れることをするんだろう?」と、理解できないことの一つでした。

ラン丸とヤス君は、同じクラス。でも、二人はまるで「走る星」と「考える星」のように、お互いの世界が違いすぎて、ほとんど言葉を交わしたことがありませんでした。お互い、ちょっとだけ「ヘンなやつだな」って思っていたかもしれません。

朝のハプニング!

ある、いつもと同じように晴れた朝のこと。

ラン丸は、ラッキーと一緒に、いつもの公園のランニングコースを、ビュンビュン飛ばしていました。

「ラッキー、今日はどこまで行けるかな!?」

その時、ガタガタの道に飛び出した、ひょっこり現れた大きな切り株に、ラン丸の足が「ゴンッ!」とぶつかりました。

切り株

「うわあああああ!」

ラン丸は勢いよく転んでしまい、ひざから真っ赤な血がドクドクと流れ出しました。ものすごい痛みで、ラン丸はうずくまって動けません。

「クゥーン…クゥーン!」ラッキーは、心配そうにラン丸の顔をなめたり、吠えたりしましたが、どうすることもできません。

その時、ラッキーの目にあるものが飛び込んできました。公園の隅っこで、地面にしゃがみこんで、アリの行列をじーっと観察している、いつものヤス君の姿です!

「ワンワン!キャンキャン!」

ラッキーは、ヤス君めがけて猛ダッシュ! ヤス君の袖をくわえて、「こっち! こっちだよ!」と引っ張りました。

「ん?なんだ、ラッキー。今、アリさんの大発見をするところだったのに…」

ヤス君は、ちょっと困った顔をしながらも、ラッキーに引っ張られるまま、ラン丸のところへ行きました。

ヤス君は、血まみれのラン丸を見て、ギョッとしました。ヤス君は走るのは苦手でしたが、考えることは得意です!

「えっと、動かしちゃいけない。えっと、消毒は…」

ヤス君は、お母さんの電話番号をすぐに思い出しました。ヤス君のお父さんは、町のお医者さんなのです。

ラン丸とヤス君の出会い


救急車がすぐに駆けつけ、ラン丸はヤス君のお父さんの病院へ運ばれました。手当を受けて、きれいな包帯を巻かれたラン丸は、ベッドの上でヤス君に言いました。

「ヤス君、ありがとう…! ラッキーも、ありがとう!」

ヤス君は、ちょっと照れくさそうに言いました。「ううん、いいんだ。走るのは苦手だけど、助けるのは得意だから」

この日を境に、二人の間には、それまでなかった見えない橋がかかりました。

友情のゴール


それからというもの、ラン丸とヤス君は、毎日、学校で顔を合わせるようになりました。

ラン丸は、ヤス君がアリの行列を観察していると、「ヤス、なんか面白いことあったか?」と声をかけます。

ヤス君は、「うん。このアリは、どうやら右足から歩き出す確率が80%らしい」などと、目をキラキラさせて答えます。

ラン丸は、チンプンカンプンでしたが、ヤス君の話を聞くのが嫌いではありませんでした。

ヤス君も、ラン丸が校庭をグルグル走っていると、「ラン丸、今日も速いな。脈拍はどれくらいだ?」と声をかけます。ラン丸は「さあ?でも、体がポカポカするぞ!」と、笑顔で答えます。

ヤス君は、ラン丸の体の動きを、まるで実験のように興味深く観察していました。

やがて、学校の一大イベント、マラソン大会の日がやってきました。

コースは、なんと5キロ! ラン丸は、もちろん優勝候補の筆頭です。

「ラン丸、頑張って!」ヤス君は、ランニングシャツ姿のラン丸に、自分が書いた「ラン丸、一番!」の応援旗を渡しました。

「パーン!」と号砲が鳴り、ラン丸は、いつものように風のように飛び出していきました。苦しい道のりでしたが、ラン丸は、ゴールで待っているであろうヤス君の顔を思い浮かべながら、最後まで足を動かし続けました。

そして、ついにゴール!

ラン丸優勝

ラン丸は、見事、一番でゴールテープを切りました! ゴールしたラン丸を、誰よりも早く抱きしめたのは、ヤス君でした。

「ラン丸! おめでとう! 君は本当に、速い星だ!」 「ヤス君! ありがとう! 君の応援があったからだ!」


考える星の輝き

数ヶ月後、今度は学校の「科学発表会」が開かれました。
たくさんの面白い発表がある中で、ヤス君の発表は、みんなを驚かせました。

ヤス君が発表したのは、「アリの行列の不思議〜もし、女王アリがいなくなったら、アリたちはどうなるか?〜」という研究でした。ヤスくんは、公園でアリの巣を観察し続け、何冊ものノートにびっしりと研究結果をまとめ上げていました。

「アリたちは、女王アリがいなくなると、最初は大混乱に陥りますが、その後、新しい女王アリを見つけ出すか、あるいは…」

ヤス君の発表は、まるで小さな科学者のようでした。難しい言葉も、ヤス君が説明すると、みんな「なるほど!」と頷いてしまいます。

結果は、ヤス君の「最優秀賞」!

誰よりも大きな拍手で、立ち上がって喜んだのは、もちろんラン丸でした。

「ヤス君、すごいぞ! 君は本当に、考える天才だ!」 「ラン丸、ありがとう! 君が応援してくれたから、頑張れたんだ!」

二人は、それぞれの得意なことを認め合い、応援し合う、一生の友達になったのです。

未来へ向かって走る、二つの星

それから月日は流れ、ラン丸とヤス君は、大人になりました。

走ることが大好きだったラン丸は、世界的に有名な外科医になりました。

どんなに時間がかかっても、どんなに難しい手術でも、ラン丸は決して諦めません。まるで、マラソンを走り抜くように、集中力を切らさず、患者さんの命を救うために走り続けます。

「あのラン丸先生に手術してもらえれば、どんな病気も治る!」

と、世界中の人々から信頼される、名医になったのです。ラン丸の手術は、まるで美しいレースのように正確で、素早いと評判でした。

一方、考えることが大好きだったヤス君は、ノーベル賞まで期待される、偉大な科学者になりました。

小さな虫の生態から、宇宙の謎まで、ヤス君の知的好奇心は、とどまることを知りません。毎日毎日、研究室にこもり、誰もが「なぜ?」と思うことを、根気強く考え、実験を繰り返しました。そして、やがて、人類の未来を変えるような、素晴らしい発見をしたのです。

ある日、世界中の科学者が集まる学会の会場で、ヤス君が壇上に立つ姿を、遠くから見つめる一人の男性がいました。それは、もちろん、世界的な名医となったラン丸です。

そして、またある日、何時間もかかる難しい手術を終えたラン丸を、病院の待合室で待っていたのは、ヤス君でした。

「ラン丸、お疲れ様。また、素晴らしい手術だったと聞いたよ」 「ヤス君も、また新しい論文が発表されたんだってな。さすがだ!」

二人は、今でも、お互いのことを誰よりも尊敬し、応援し合っています。

走るのが大好きなラン丸と、考えるのが大好きなヤス君。まるで、夜空に輝く二つの星のように、それぞれが違う場所で、まぶしい光を放ち続けているのでした。

めでたし、めでたし。

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