
こんにちは、青い空!
トントントン、コツン!
「あれ?なんだか、頭の上に固いものがあるぞ?」
地球の片隅の、誰も知らない草っぱら。そこの土の中から、小さな小さな何かが、「よいしょ、よいしょ!」と、背伸びをしていました。
それは、生まれたばかりの、ちっちゃなちっちゃなスミレの芽でした。
「やったー! やっと外に出られたぞ!」
スミレは、目をキョロキョロさせました。上を見上げると、そこには、信じられないくらい真っ青な空が広がっています!
「わあ! なんて青いんだろう! まるで絵の具を溶かしたみたいだ!」
スミレは、青い空を見上げるのが、なんだか得意げでした。だって、土の中から出てきたばかりで、まだ何も知らないけれど、この空の青さが、なんだか特別な気がしたからです。
でも、それしか見えません。
バラお嬢様も、ボタン王妃も、チューリップ王女たちも…なんにもないのです。
上を見上げると、あまりにも青い空が見えました。でも、それしか見えません。かつて空をおおっていたはずの白い雲や、生き生きした鳥の影もありません。それは、人類の過剰な経済活動がもたらした、あまりにも「きれいすぎる」空でした。
大地は、まるで誰にも忘れられたように、ただ土と穴だけが広がっていました。
「んー、仕方ない。周りを見てみるか…」
スミレが、くるくるっと、あたりを見回すと、そこには、たくさんの穴、穴、穴! そして、その穴から、いろんな顔が、キョロキョロ、ニョロニョロと動いているではありませんか!
「やあ、ちっちゃなスミレちゃん!」「おう、元気かい?」「おや、新しい顔だね!」
モグラさんは、土の中から顔を出して、クンクン鼻を鳴らしていました。 カタツムリくんは、ぬるぬる光る体を揺らしながら、ゆっくりと近づいてきました。 ミミズのおじさんは、ニョロニョロと土から出てきて、スミレの周りを一周しました。 なんと、夏になると鳴き出すはずのセミまで、「ミンミン!」と小さく鳴きながら、土の中から出てきています。
スミレは、みんなの歓迎に、なんだか胸がポカポカしました。
バラお嬢様とボタン王妃のトゲトゲ言葉
でもね、スミレが土の中から顔を出したのは、これが2度目だったんです。
一度目の時を思い出すと、スミレの胸は、キューンと痛くなりました。
あの時は、スミレの周りは、それはもう、きれいな花、花、花で、いっぱいの花畑だった。
そこには、女王様とよばれたバラお嬢様が、真っ赤なドレスをフリフリさせながら、こう言いました。
「あら、こんなところに、みすぼらしい雑草が芽を出したわ。わたくしの赤いドレスが汚れるじゃない!」
王妃様とよばれたボタン王妃は、ピンク色のゴージャスなドレスを揺らしながら、言いました。 「本当にね。あなた、それでも花? まるでお豆のサヤみたいだわ。早く引っ込みなさい!」
そして、王女様とよばれたチューリップ王女たちは、色とりどりのドレスで、クスクス笑いながら言いました。
「うふふ、私たちの美しいドレスの横で、縮こまっている姿ときたら! まるでピーナッツね!」
ちっちゃなスミレの、大脱走!
バラお嬢様やボタン王妃から、毎日毎日、トゲトゲの冷たい言葉を浴びせられたスミレは、だんだん悲しくなり、そのたびにキュッ!と縮みこんでしまいました。
「みすぼらしい」「ピーナッツ」なんて言われて、とうとう我慢できなくなりました。
「もうイヤだ! こんな世界、いらない!」
スミレは決心しました。
「えいっ!」
スミレは、地面に根っこをぎゅーっと引っ張ると、グイグイ、グイグイと、自分で土の中にもぐり始めました!
バラやボタンたちが「あら、とうとう逃げ出したわ」とクスクス笑う声を聞きながら、スミレはどんどん、どんどん、土深くへと潜っていきました。まるで、潜水艦みたいです。
潜った土の中は、真っ暗で、しんとしていました。スミレはそこで、じーっと動かずに、長い長い時間を過ごしました。
悲しくて痛かった心も、時間が経つと、少しずつ和らいでいきました。それは、スミレのおばあちゃんが言っていた「とき薬(ときぐすり)」のおかげかもしれません。心の痛みは、時間がゆっくりと治してくれる、おばあちゃんの知恵でした。
「よし。もう、あのトゲトゲな言葉を思い出しても、あんまり痛くないぞ」
スミレは、ムクムクと顔を上げました。
「今度こそ、青い空が見たい!」
そして、スミレは再び、「よいしょ、よいしょ!」と背伸びをして、土の中から顔を出しました。それが、さっきの2度目の顔出しだったというわけです。
世界はまるで、がらんどう!
でも、外の世界は、スミレが知っていた世界とは、まるで違っていました!
あたりは、さっき見たモグラやミミズがいる、がらんどうの草っぱらだけ。昔、あんなに美しかった花畑は、跡形もありません。
スミレは、キョロキョロ、不思議そうな顔をしました。
「あれ? あの、キラキラの服を着た花たちは、どこへ行ったんだろう?」
その時、スミレのすぐ隣りから、優しくて、落ち着いた声が聞こえてきました。
「こんにちは。キミは、世界で一番きれいな色をしているね」
スミレが、ハッとして横を見ると、そこには、真っ白なベルベットのコートを着たような、気品のある花が咲いていました。それは、遠い山に咲く、エーデルワイスがいました。スミレは、エーデルワイスの美しい姿に、思わずドキッとしました。そして、心底そう思いながら、答えました。
「えっ! ううん、そんなことないよ! あなたの方が、ずっとずっと素敵だ! 白くてふわふわで、なんだか勇気をもらえる色だね」
エーデルワイスは、にっこり微笑みました。
小さなヒーローのほほえみ
スミレは、エーデルワイスを見上げて、少し考えてから言いました。
「ねえ、エーデルワイス。世界に何があったのかはわからないけど、あんなにたくさんいた花たちが、今はどこにもいない。まるで、まっさらな地球みたいだ」
エーデルワイスは、静かにうなずきました。
「でも、地球🌏は、まだまだ続くから。私たちも、ここでゆっくり、一緒に生きて行こうよ。きっと、また新しい友達がたくさん生まれてくるはずだ」
小さな小さなスミレは、エーデルワイスの、まるで雪のような美しい白い花びらを見上げながら、ニッコリ微笑みました。
スミレは、もう、「みすぼらしい」なんて、ちっとも気にしていません。だって、自分には「とき薬」で痛みを治す強さがあるし、青い空が見える場所を見つける力がある!
小さな小さなスミレは、自分のことが大好きになって、この地球のヒーローになったとさ。
おしまい。
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