変化朝顔の多様性:江戸時代の精神性を写真で紐解く

千葉県佐倉市にある国立歴史民俗博物館は、日本の歴史や文化を研究・展示する専門施設。その敷地内にある「くらしの植物苑」では、毎年、実際に植物苑で栽培した変化朝顔の実物を所蔵の歴史資料と同時に展示し、園芸文化を分かりやすく説明している。

江戸時代に武士や裕福な商人が趣味として愛した変化朝顔。もし記録するツールとして写真があったなら、どんなに楽だったろうと思った。

変化朝顔とは?

変化朝顔は突然変異によって、花や葉、茎などが普通の朝顔と異なる形に変化したもの。朝顔の粋な変身。江戸時代からの贈物。

江戸時代の朝顔の美

朝顔は芸術。江戸時代の園芸家たちの心が宿っている。

正木系統筒

photo by Mr.Soutan

富士の空

富士の空
photo by Mr.Soutan

富士の峰

富士の峰
photo by Mr.Soutan

富士の桃

富士の桃
photo by Mr.Soutan

江戸時代の精神性とは?

江戸の園芸文化は伝統の技と粋。変化朝顔に込められた江戸時代の探究心、向上心、そして美しい花を愛でるおおらかさこそが江戸時代の精神性ではないだろうか。

江戸時代の変化朝顔市

江戸時代の変化朝顔市
painted by Ms.Distel

江戸時代、武士や豊かな商人たちは園芸を趣味にした。

Mr.Soutan写真術:花

Mr.Soutanの写真術:構図の型

1 日の丸構図 (シンメトリー)

2 三角構図 

3 対角線構図

(他に、3分割法構図、S字構図、トンネル構図がある)

日の丸構図は普通、誰でも無意識にとる構図。多分、日の丸構図という呼び方は後付けですね。

日の丸構図 (シンメトリー)

日の丸構図は被写体を画面の真ん中に配置。強調したいものがはっきり伝わり、安定感や力強さを表現し、主役の花を際立てる。下記の朝顔「舞姿」の美しさは日の丸構図が最適です。

舞姿

日の丸構図 (シンメトリー構図)
photo by Mr.Soutan

親木と正木

親木(おやぎ)とは何か?

親木: 特徴的な葉や花をつける株から採れる種。しかし、この種はほとんどが発芽せず、発芽しても親と同じ特徴を持つものが生まれる確率は低い。

親木(おやぎ)とは何か?
photo by Mr.Soutan

出物(でもの)とは何か?

変化の形質が発現した株で、その形質が固定化されたものを「出物」と呼ぶ。出物から採れる種は再び出物になる可能性が高い。

一重出物打込

一重出物打込
photo by Mr.Soutan

三角構図 

三角構図は、主要な被写体を三角形の形になるように配置。富士山のような自然な三角形だけでなく、3つの要素で構成することも下の写真のようにOKです。

一重出物打込

三角構図
photo by Mr.Soutan

朝顔と牡丹の関係とは?

朝顔と牡丹は全く異なる植物で、遺伝的に遠すぎるため、交配して新しい品種を生み出すことは不可能。でも、「牡丹朝顔」という名前が頻繁に登場する。それは花びらが幾重にも重なり、まるで牡丹の花のように見えることから名付けられた変化朝顔をそう称しているだけ。残念ながら、牡丹朝顔は、朝顔の遺伝子変異によって生まれたものであり、牡丹とは直接的な関係は全くない。

親木牡丹:青

親牡丹:青
photo by Mr.Soutan

親木牡丹:白

親木牡丹:白
photo by Mr.Soutan

江戸紫とは何か?

江戸では染色を紫草の根っこを使って行ったため、その紫が江戸独特の色、つまり赤みがかった京紫と異なり、青みがかった鮮やかな紫だったことから区別されて呼ばれた。また歌舞伎十八番の助六が頭に巻いたハチマキがこの江戸紫だったことから、江戸庶民の間で大流行したことから、江戸紫という言葉が一般化した。

親木江戸紫

親木江戸紫
photo by Mr.Soutan

正木(まさき)とは何か?

正木: 正常な葉と花をつける株から採れる種。この種は、変化朝顔の遺伝子を持ちながらも、親株は普通の朝顔の姿をしている。翌年、変化朝顔の遺伝子が分離して、様々な珍しい葉や花を持つ朝顔が生まれる。

正木系統紅

正木系統紅
photo by Mr.Soutan

対角線構図

対角線構図は、下記の正木系統水色のように、画面を斜めに横切るように被写体を配置する。坂道など、動きや勢い、奥行きを与える助っ人です。

正木系統水色

正木系統水色
photo by Mr.Soutan

正木系統太平洋

正木系統太平洋
photo by Mr.Soutan

種の見分け方は?

遺伝子知識がなかった時代に種の性質を知る方法とは?


遺伝子という知識がなかった時代でも、朝顔愛好家たちは経験則系統的な観察によって種の性質を理解した。

選抜: 優秀な形質を持つ株を選び、その種を採って翌年育てることを繰り返した。
交配: 異なる特徴を持つ株を意図的に交配、新しい変化が生まれるかを試した。
記録: どの親からどのような種が採れ、それが翌年どのような姿になったかを詳細に記録した。精密な絵も沢山残されている。

これらにより、「この親から採れた種は、翌年に変化朝顔が生まれる可能性が高い」といった経験的な知識が蓄積された。
愛好家たちは遺伝子の仕組みを知らなくても、形質の遺伝法則実践的に見つけ出した。メンデル遺伝の法則を発見するずっと前から、彼らは「種の中には、目に見えない形で次の世代に伝わる何かがある」と深く理解していた。

正木系統白筒紅

正木系統白筒紅
photo by Mr.Soutan

曜白とは何か?

花の中央に白い模様が入る朝顔をという。
曜白系」とは、白と紫のストライプが入る朝顔のこと。

曜白:大輪富士の紅

落ち着いた赤と白のストライプは絶妙です。

photo by Mr.Soutan

曜白大輪:富士の紫

富士という名前から、日本一大きい紫と白のストライプという自信作だったのではないだろうか。

曜白大輪:富士の紫
photo by Mr.Soutan

出物系統

葉は朝顔だとわかるが、とても朝顔とは思えない美しさ。

出物系統
photo by Mr.Soutan

変化朝顔の系図

朝顔図鑑

変化朝顔の系図:朝顔図鑑

[表の言葉一覧]

正木:種ができる。種をまけば同じものが育つ。(保存)
出物親木:出物の遺伝子を持つ。種をまくと下記のどれかの種類が出る。(保存)
出物抜け:出物の遺伝子を持たない。(廃棄)
親木:出物の遺伝子を持つ。出物の維持にはこの種を保存する。

下記の種類は、直接、種を取ることができないので、出物の遺伝子を持つ親木を維持する。
牡丹(出物)
(出物)牡丹が組み合わされることもある。
(出物)牡丹が組み合わされることもある。
糸柳牡丹(出物)笹と牡丹と柳が組み合わさったもの。

変化朝顔が衰退した理由?

変化朝顔の多くは、葉や茎の構造が変化しているため、光合成能力が低かったり、成長が遅かったりした。そのため、健全な株を育て、種を採るには高度な技術と手間が必要とされた。また、変化朝顔は遺伝子が不安定なものが多く、翌年同じ形質が発現する確率は高くなかった。期待通りの花を咲かせるためには、多くの種を蒔き、その中から選別する必要があった。

江戸時代の精神性の高さ

江戸時代、武士や裕福な商人には、趣味として朝顔の栽培に没頭する時間的・金銭的、文化的なゆとりがあった。
しかしながら、現代社会では、このような手間のかかる園芸に時間やお金をかける人が少なくなったのではないだろうか?

多様性が生命の鍵

植物のケース
変化朝顔の育種家たちは、一見すると「劣った」遺伝子(花や葉が正常でない)を持つ個体を排除するのではなく、むしろその多様性を積極的に活用した。その結果、江戸時代には数千種類もの珍しい朝顔が生まれ、病気や災害で特定の系統が絶えても、別の系統から復活させることが可能だった。
もし、彼らが「正常」な朝顔だけを選び続けていたら、今日の変化朝顔の文化は存在しなかったはず。

人間の歴史のケース
スパルタが「優秀」とみなした個体のみを残したという歴史的記述は、古代の思想家プルタルコスが記した。(弱者は皆殺しにしたともいわれる)その信憑性については現代の歴史家によって議論されている。しかし、この話が示唆する点は重要。もし仮に、ある集団が遺伝的な多様性を意図的に排除したとすれば、それは環境適応能力の低下に直結するからです。

特定の環境下で「優秀」とされる形質が、別の環境や予期せぬ疫病、飢饉などには全く役に立たない、あるいはむしろ不利に働くことがあるからです。遺伝的多様性は、集団が未知の脅威に立ち向かうための保険のようなもの。物が持てない力のない弱者が、AIの時代になったら途端に、脳の力を発揮する。そんな世界が今や現実となっている。
江戸時代の人々は変化朝顔を通じて、その基本的な考えを持っていたのではないだろうか?

変化朝顔の写真撮影を終えて

変化朝顔の写真撮影は二回目。一回目は時期が遅く、よい写真が撮れなかった。二回目の今度はリベンジ撮影。いい写真が撮れたと自負している。

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